本書で「コミュニケーションは技術だ」とおっしゃられていますが、そう考えはじめたきっかけはいつからですか?
都市開発やマーケティングがやりたくて広告会社に就職しました。
ところが、配属されたのはクリエイティブの部署。それもコピーライター職でした。コピーライターになりたいわけではなかったので、ビジネスキャリアのスタート時点では言葉についての意識はほぼありませんでした。
ただ、昔から落語が好きで上方から江戸までいろいろ聞きまして、言葉やコミュニケーションへの興味はありました。名コピーライターが書くコピーの、評価されるポイントは分かるのですが、そこに辿り着けない自分がもどかしくて、ずいぶん思い悩みました。一生懸命考えても採用されず、捨てられる。八方ふさがりで進む方向が見出せませんでした。
でも、ある程度キャリアを積んでくると、自分なりに良いコピーを生み出す方法論ができてきたのです。考え方の当たりとハズレ、その選択の方法。頭の中にいくつも「引き出し」をつくり、適材適所で出し入れをしてコピーをつくっていました。
この方法論は、広告講座でコピーライター志望の受講生にも教えました。分かりやすく伝えるために試行錯誤を重ね、公式化したものが本書で紹介した20のメソッドです。コミュニケーションはセンスではなく、技術で伝わりやすくなることをもっと広く知ってもらいたいと思いました。
「おわりに」でも書きましたが、芸大などでデザインは学問になっていますが、コピーは学問になっていません。もちろん文学はありますが、「どうやって伝えれば相手に届くのか?」を教える学問、つまりコピーライティング学はないんです。そこで、それを作るきっかけとして『伝わっているか?』を書いたんです。
デザイナーが設計するマンションは、”デザイナーズマンション”と呼ばれてなんだかかっこいい。でも、コピーライターが作る”コピーライターズマンション”だったら大笑いでしょう。
でもコピーライターは、コンセプトを作る職人なんです。たとえば「森みたいなマンションを作ろう」とコンセプトを掲げることで、デザイナーも建築家もイメージを膨らませます。インテリアはきっと木製だろうし、自然と一体化した建造物かもしれません。
つまり源流を作るのは、言葉なんです。その言葉を分かりやすく伝えられる人が増えて、言葉を伝えるロジックが技術化すれば、世の中はもっと楽しく、新しいことが増えていくと思うんです。
ビジネスだけでなく、恋愛などさまざまなシーンを想定して、初心者目線で書かれています。その意図はどこにあるのでしょう?
難しいことをそのまま伝えても、人の目に触れさえしないことは広告の仕事で学んだことです。難しいことを噛み砕いて簡単にして、おもしろく世に送り出すのが広告。「あのCMおもしろいね!」と興味を持ってもらうことから、本当に伝えたいことを生活者の気持ちに自然と浸透していく。
広告をつくる視点で書籍の出版を考えると、読みやすくてすぐに次のページをめくりたくなる本、芝居やドラマのように感情移入しやすくて、楽しく読み進めるうちに「へぇー」という気づきのあるエンターテインメントがいいなと考えました。
本の中ではコミュニケーションに問題を抱えた人が登場します。彼らは、「何を考えれば良いのか?」もわかっていないんです。現実でも同じように行き詰まっている人が多くて。
「部下は上司を馬鹿だと言い、上司は部下を使えない奴だと言う」。よくあるビジネス上の人間関係の例ですが、これもコミュニケーションが問題です。ビジネスは、商品と人、人と人、企業と人などのコミュニケーションで成り立っています。つまり、それがうまくいくとビジネスもうまくいく。
このような問題を、いくつかのパターンに分類して、それを解決していくストーリーです。根本にあるのは、「相手の立場になって考えてみる」こと。きっと考え方も選ぶ言葉も変わってくるはずです。意外と簡単に問題が解決していくことを実感されるでしょう。
コミュニケーションや伝え方がここ数年注目されています。
この現象をどのように捉えていますか?
人間関係やビジネスを有利にする、弁の立つ人がどの分野にもいますが、そういう人たちには特殊なセンスが生来備わっていると思われていました。コミュニケーションに関するノウハウ本が多く出版されたことで、センスではなく技術で補えることが認知され、「努力すれば自分にもできるかも」と汎用的になってきました。
その背景にはtwitterやfacebookなどのソーシャルメディアが生活の必需品になって、1対1000、1対10000人とコミュニケーションで繋がる単位が大きくなると、言葉に対する意識が高まるのは自然の流れでしょう。
ソーシャルメディアが流行した当初は、「2000人フォロワーがいます」「1000人とつながっています」と、ことさら人間関係やつながりの多さを誇らしげに自慢する人が多かったのですが、今はコミュニケーションをする相手の数よりも、家族や友人、恋人、上司、同僚…誰とどう深くつながっているかが大切。深くつながる、わかり合うために言葉の選び方、言葉の技術が求められていると思います。
本書で書かれているメソッドを応用すれば、ビジネスや人間関係の構築で有利に立てるようになることもあります。
しかし、言葉で意のままに相手を動かすことは、使い方によっては注意が必要ですよね。
本書を通して、伝えたいこととは?
実際に政治家や企業のトップは、コミュニケーション術を駆使して人を動かします。
でも、この本は違います。結果的に人を動かすことになるのですが、人を意のままに動かすという視点では書いていません。人を扇動するための言葉ではなく、「分かりあいたい。幸せになりたい」という欲求に応えるための言葉です。自分の気持ちをきちんと相手に伝えたいのに伝わらないという悩みは色々な環境であります。その悩みを少しでも解消したいと思いました。
1回目はさらっと読んで「伝わるメソッド」を知ってもらい、2回目、3回目で「今度使ってみよう」「応用してみよう」と実践してほしいですね。その体験の先に、自分らしい方法が生まれてくるはずです。伝わった方法と上手くいかなかった方法を検証して、次につなげてほしいです。体系だった方法を積み重ねていけば、学問になると考えます。
放送作家、ラジオパーソナリティー、コピーライターの友人・知人から「学問化という部分に賛同する」と反応がありました。賛同してくる人たちとともにいつかそれをカタチにしたいです。
これから本を読まれる方に向けてメッセージをお願いします。
仕事場や家族、友人、人間関係にはいろいろな悩みがあります。単純に「メールがうまく書けない」という問題を抱えている人もいます。そんなコミュニケーションの悩みや問題は、少し考え方を変えるだけで、意外と簡単に解決できることもあるんです。
まずはそれを知ってほしいですね。日本では「黙して語らず」が美徳であるかのような文化があって、喋らない人たちがすごく多い。この本はそんな人たちに向けて書いたアンチテーゼでもあるんです。一番身近な人たちを喜ばせたいのであれば、プレゼントや花をサプライズで贈るなど相手が喜ぶことを考えますよね。
コミュニケーションもそれと同じで、相手が喜ぶことを考えて話すと驚くほど自分の気持ちが相手に伝わると思います。本を読んで実践していただきたいですね。
ありがとうございました。