人を憎しみ、恨む者は悲しい。心の平穏はなく、負の感情にとらわれ続けねばならないからだ。しかし、ときに人は許し難い怒りや激しい憎しみから復讐を果たそうと考える。そして、それは悲劇のはじまりでもある。
手塚治虫の作品は概して、悲劇的な結末を迎えることが多い。生きることは試練の連続であり、つらく苦しいもの。人生に安易なハッピーエンドはなく、誰かの悲劇と背中合わせなのである。それだけに小さな幸せが尊く、手塚治虫は幸福と悲劇をセットで描いているのかもしれない。
そんな復讐をテーマにした手塚治虫の傑作を集めた異色短編集、手塚治虫セレクション『復讐』が発売となった。
収録作品は、SF的作品の「ザムザ復活」、妖怪ファンタジー「マンションOBA」、戦国時代を舞台にした「最上殿始末」、古代ヨーロッパを舞台にした「コラープス」、マフィアへの復讐を誓う「鉄の旋律」など、時代もジャンルも違う復讐の物語ばかり。復讐をテーマに、これだけ多彩な作品を生み出したところは、さすが手塚治虫といったところか。
また手塚治虫の代表作『ブラック・ジャック』から「復しゅうこそわが命」「灰色の館」など5つのエピソードも収録。
イギリスの哲学者フランシス・ベーコンは『復讐する時、人間はその仇敵と同列である。しかし、許す時、彼は仇敵よりも上にある』といった。憎しみは連鎖し、また復讐も連鎖する。その連鎖から逃れるためには、相手を許し、高みに立つべきなのだ。さまざまな復讐、さまざまな復讐者たち。これらの物語を通して、手塚は復讐の虚しさを伝えている。
三栄書房の手塚治虫セレクション『復讐』は価格537円(税別)。6月19日(金)より全国のコンビニエンスストアで発売中。
手塚治虫セレクション 復讐
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