手塚治虫が描く主人公には天才が多い。そのことを気づかせてくれるのが今回発売された『感動!天才たちの奇跡』だ。たとえばブラック・ジャックは天才外科医で、七色いんこは天才役者、そしてミッドナイトは天才タクシードライバーである。
また『三つ目がとおる』の写楽保介は、古代文明を築いた三つ目族の末裔で超天才。さらに手塚が主人公として扱った実在の人物、ルードウィヒ・ヴァン・ベートーベンもまた音楽の天才である。
自身も「漫画の神様」「天才漫画家」と呼ばれる手塚だが、“天才は天才を知る”という言葉の通り、天才ならではの苦悩や苦難をドラマにして描いたのはそれ故だったのだろうか?
いずれにしろ、それらの作品の主人公がその才能によって見事に事件やトラブルを解決するところは爽快だ。特に今回の収録作品は、その天才たる所以を証明するような物語を中心に構成されている。
たとえば、『ブラック・ジャック』の「タイム・アウト」「畸形嚢腫」などではその天才外科医ぶりを遺憾なく発揮し、「はるかな国から」「ホスピタル」「白い目」では名医と呼ばれる医者の鼻を明かす気持ちのいい結末のものばかり。これらの作品を読むだけで『ブラック・ジャック』の面白さが十分に伝わってくる。
そのほか、『七色いんこ』『三つ目がとおる』『ミッドナイト』についても掲載作品を選ぶにあたって、主人公たちが天才的な能力を活かして起こした「奇跡」に注目していて、そのどれもが名短編。コンビニコミックながら手塚作品の魅力がぎゅっと凝縮された一冊と言える。
また特別掲載として『ミッドナイト』の最終回を収録。あまりにも衝撃的だとして最初の単行本での収録が見送られた幻の物語だ。ブラック・ジャックが登場し、その結末に深く関わることから『ブラック・ジャック』のスピンオフ作品と言わしめた問題作であり、ファン以外にはあまり知られていない一編なので、興味のある人はぜひこの機会に要チェックである。
三栄書房の手塚治虫セレクション『感動!天才たちの奇跡』は価格639円(税別)。10月19日より全国のコンビニエンスストアで発売中。
手塚治虫セレクション『感動!天才たちの奇跡』
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