現代的なモーターショーで避ける事ができないテーマのひとつが、“ゼロ・エミッション”に代表される環境問題である。今回の東京モーターショーでも水素を用いた燃料電池車(FCV)や電気自動車などが展示され、各ブースを取材していると、明日にでも環境問題が解決しそうな気持になってくるが現実はそう簡単なものではない。
FCVではガソリンスタンドに相当する「水素ステーション」が整備されるまでには相当の時間を必要とするだろうし、夜間の待機電力を用いて充電を想定する電気自動車(EV)は、家庭の“ちょい乗り”では便利だけど、長距離トラックに採用するにはディーゼルの給油に比べて圧倒的に長い充電時間がネックになっている。
長距離トラックのEV化が当たり前の世の中を実現するには、一瞬で充電が完了する技術革新が起こるか、スマホなどで実用化されている“ワイヤレス充電”テクノロジーを応用し、道路を走るだけで充電されるインフラを整える必要がある。いずれの技術も研究中ではあるが、ここ数年に実現化するメドは今のところたっていない。
こうした状況の中、今すぐに実現可能な環境問題対策だと改めて再認識したのが、プラグインハイブリッドと天然ガス自動車だ。特にいすゞ自動車ブースで参考出品された「ギガ CNG-MPI」は、長距離トラック分野において注目すべき、圧縮天然ガス(CNG)車だ。
CNGのもととなる液化天然ガス(LNG)は世界各地に広く豊富に埋蔵されており、2012年時点で約187兆m3(シェールガスを除く)が確認され、年間生産量で割った可採年数は55年になる。さらに日本近海を含む新しいガス田が次々に発見されており、シェールガスを含めると回収可能な埋蔵量は約250年分と試算されている。
CNGはディーゼル燃料に比べCO2、NOx共に排出量が少なく、人の呼吸器系に沈着して健康に影響を及ぼす“PM”を殆ど排出しない特徴で知られている。モビリティの適材適所においては、車両重量が大きく、1日あたりの走行距離が長い大型の長距離トラックではFCVとCNGが最も適しているとも言われている。さらにタクシー等でCNGの普及が進んでおり、天然ガススタンドのインフラもそれなりに整っているのだ。
これまでのCNGでは搭載可能な燃料上の制限があり中型トラックが主流であったが、東京モーターショーで再提案された「ギガ CNG-MPI」はタンクのレイアウトを変更して、東京と大阪間を1回の充填で走行可能なスペックを実現した。今回はあくまで参考出品ではあるが、市販されれば明日から環境問題対策が可能な大型トラックになり得るのだ。
液化天然ガス(LNG)の輸入大国である日本は、2017年から原油価格に連動しない米国産シェールガス由来のLNGが開始される。これに伴い輸入価格は現在の6~7割程度に削減できると期待され、運送業者にとっても大きなメリットになるだろう。
東京モーターショーは未来的なテクノロジーをお披露目する場所でもあるが、今あるテクノロジーの有効活用にも注目すると、クルマ社会の明日が見えてくるはずだ。
東京モーターショー
http://www.tokyo-motorshow.com/
いすゞ自動車
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