各国の政治家や著名人の資産運用の内容をさらし、世界に大きなインパクトを与えた「パナマ文書」。
その後、ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)の呼び掛けで世界中からプロフェッショナルな記者集団が400人集まり、膨大な流出データを分析する国際プロジェクトが発足。その顛末はNHKでスペシャルでも特集され、話題となったことは記憶に新しい。
双葉社から発売中の『報じられなかった パナマ文書の内幕』は、この国際プロジェクトの舞台裏が描かれた1冊だ。著者は、アメリカのメディアを中心に活躍する、日本に精通したイタリア人ジャーナリストのシッラ・アレッチ氏。同プロジェクトでは彼女が声をかけたイタリア人ジャーナリストおよび朝日新聞、共同通信の記者と共に日本の調査を担当している。
ジャーナリストと言えば戦場や記者会見など、足で情報を集める印象が強いかもしれない。しかし、パナマ文書のような膨大なデータを解析することで、世に公開すべきスクープにたどり着く可能性があるもの事実であり、本書で書かれているのは、膨大なデータに立ち向かうジャーナリストのリアルだ。
文書の中身にはどのような意味があり、誰が租税を回避しているのか。膨大な資料を扱うにあたり、まずはフィルタリング作業が必須であり、なおかつ名前だけでは人物を特定できないため生年月日や顔写真データとの突き合せを行うなど、気が遠くなるような作業量を要する。
また、セキュリティに気を配りながら多くのジャーナリストで情報を共有して解析作業を行い、その結果をもとに読者の興味を引くようなストーリーとして見せることにも工夫をこらしたという。
こうしたプロジェクトの舞台裏を描きつつ、日本ではアメリカに比べて情報公開が進んでいないことや、記事を「読み物」として物語性を重視しない傾向にあること、資金などの面から、いわゆる「調査報道」の歴史が浅いことや、日本のジャーナリズムが抱える様々な問題点をグローバルな視点で指摘する。
たとえば、アメリカでは大統領選の勝敗を予想するサイトを運営する統計学者が、ニューヨーク・タイムズから資金を受けて活動していること、イタリアではジャーナリストを警察がエスコートすることで命がけのマフィア報道が成り立つが、日本ではそういった仕組みがないこともあり暴力団犯罪の取材があまりカバーされていないように思えることなど、具体例や著者が携わった報道など興味を引く事例が登場する。
横並びにニュースを発信するメディアだけでなく、社会問題に深く取り組むジャーナリストが必要だと説き、そのために自ら動くジャーナリストになって欲しいと著者は述べる。
パナマ文書の舞台裏を知ると同時に、日本のジャーナリズムが抱える問題点が見えてくる。これからジャーナリズムの世界を目指そうとしている人、何か新しいことをやりたいと考えるジャーナリストには参考にしたい1冊だ。
報じられなかった パナマ文書の内幕
http://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-31212-6.html