手塚治虫というと『ブラック・ジャック』のようなヒューマンドラマや『火の鳥』のような生命や運命を描いた作品、また『鉄腕アトム』のような正義の主人公が活躍する作品ばかりがクローズアップされがちだ。
しかし、幅広いジャンルに挑戦した手塚治虫は、人間の裏側、闇を描いた大人の作品も多い。たとえば、映画化された『MW(ムウ)』やアドルフ・ヒトラーをモデルにした『アドルフに告ぐ』がそれだ。
今回、発売される『奇子(あやこ)』は、知る人ぞ知る異色作。戦後、山奥の旧家を舞台にし、閉鎖的な一族の因習、蔵の中で育った少女など、横溝正史を思わせる設定であり、実際に戦後にあった国鉄総裁の不審死事件、下山事件をモチーフにしたところは松本清張的でもある。ミステリーやサスペンス小説好きなら、大いに興味をそそられることだろう。
また、蔵の中で無垢なまま成長する少女の大人の女性への目覚めなど、官能的なシーンも見どころである。
前述した通り、手塚治虫は幅広いジャンルに挑戦した。それは漫画家として常に最先端を走り続け、“漫画界の先駆者”である手塚治虫の使命だったのかもしれない。
あらゆるジャンル、可能性に対して試み、少年漫画や少女漫画に飽き足らず、ともすれば淫らで退廃的な表現を駆使して成年漫画にまで挑戦した手塚治虫。漫画という表現がいかに自由で、いかに可能性を秘めているのか、手塚治虫という先達がいてこそ、現在の漫画がある。
手塚治虫の全作品を見た時、我々がいかに彼の一面しか見ていなかったかがわかる。『奇子』はそんな新たな一面を発見させてくれる作品のひとつと言えよう。手塚ファンはもちろん、手塚作品に偏見を持っている方も一度読んでみてはいかがだろう。
また三栄書房では、「黒の手塚治虫シリーズ」と銘打ち、大人向けの少しダークな手塚治虫作品を順次刊行する予定とか。大人の様々な思惑に翻弄され、人生を狂わされた少女の結末はいかに。
『奇子』(三栄書房)は価格657円(税別)で2月21日(金)より全国のローソンで発売。
黒の手塚治虫シリーズ 奇子 (あやこ)
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三栄書房
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