映画公開記念 百田尚樹も絶賛のコミック版『永遠の0』著者にインタビュー

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須本壮一さん
須本壮一さん

12月21日(土)から公開される、岡田准一さん主演の映画『永遠の0』は、零戦搭乗員の人生を描いた作品である。

原作は大ベストセラーとなっている百田尚樹さんの同名小説だが、同名のコミック版も累計80万部を超え、話題を呼んでいる。コミック版『永遠の0』は、アクションコミックスとして全5巻(1巻~4巻各税込630円 5巻税込720円)が発売中だ。
作画を担当したのは須本壮一さん。本来のペンネームは“本そういち”で、麻雀漫画や、北朝鮮拉致問題などの社会問題を扱った漫画、戦記物などを描いていたのだが、『永遠の0』の漫画化に際し、ありのままの自分でこの作品と対峙するという意気込みのもと、本名の“須本壮一”名義で臨んでいる。

映画の公開にあたり、須本さんにコミック版『永遠の0』の制作秘話や、百田さんとのエピソードについてインタビューを行った。主人公・宮部久蔵のモデルとなった方への取材など、原作のファンはもちろん、そうでない人にも非常に興味深い内容である。
ただし、小説・コミック・映画に関するネタバレが含まれるため、情報をシャットアウトしたい方はくれぐれもご注意を。


──まずは、『永遠の0』のコミカライズの経緯について教えて下さい。

須本さん:
そもそも、僕は『夢幻の軍艦大和』(講談社)という連載を長く続けていたこともあって、日本の近代史について詳しくなっていたし、軍艦や零戦などの兵器を描くのにも慣れていたんですね。
その頃に、双葉社の編集者さんが、それを生かした企画を何かできないかということで始めたのが、『ガンパパ島の零戦少女』という作品でした。それは、 “零戦”と“萌え”という要素を組み合わせるという、少し読者に媚びた作品で、結果的にあまり良い反応は得られませんでした。その経験も踏まえ、次回作では地に足の着いた本格的な近代史を描きたいと思い、候補の一つだったのが小説『永遠の0』だったんです。

当時の「漫画アクション」の編集長から小説を薦められ、試しに読んでみたところ、この世界観に引き込まれて一気に読み、ぜひ自分の手で漫画化したい!と思ったんです。その後、編集者を通し百田さんに打診すると、『ガンパパ島の零戦少女』の1巻を読んで下さって、「素晴らしい。こんなに零戦や兵器をしっかりと描き込める人ならぜひお願いしたい」との返事を頂きました。それで初めてお会いした時にお互いいろいろな話をし、意気投合したんです。百田さんからは、主人公の恋愛の部分等、小説でやり残した部分があったと言われ、僕は僕で小説を読んだ時にイメージがいろいろと膨らみ、ラストは違う形を取ってみたいと話したところ、「楽しみにしているのでお任せします」と言っていただいたのです。

ちなみに、同じく百田さんのベストセラー『海賊とよばれた男』のコミカライズもやらせて頂くことになりました。2014年2月頃から「イブニング」(講談社)で連載予定です。

──webの書評などでは、小説と漫画の内容が一部異なるという意見もありますが。

須本さん:
僕は、漫画も映画も小説とかけ離れていないと思っています。この物語には、主人公・宮部はなぜ特攻を拒否しつづけていたのか、という大きなテーマがありますが、その辺は小説では最後まで曖昧な形を取ることで、読む人の心の中の解釈に任せています。だから僕は逆にそれを汲み取って、コミックスの最終巻は僕のニュアンスで描いたんです。

映画ではセリフとして、生き残ったおじいさんの言葉で表現されています。それは、映画も原作の深いところを理解した上で、作品への愛がないとできないことだし、あのシーンが映画としての完成度の高さにつながっていると思うんですよ。百田さんも絶賛していましたし。2時間半の映画として見せた時に、何の話かきちんと理解してもらうためには、テーマに対する答えを言い切らないといけないですよね。だから脚本を書いた山崎さんと林さんはさすがだな思います。

小説と、映画や漫画との違いは、ビジュアル化しているか、していないかですよね。映画は予算が限られているから、戦闘シーンの再現には限界があります。
でも、それを無限に作りこめるのが漫画です。兵器から空母まで好きなだけ描きこむことができるので、それが漫画の強みだと思います。兵器や乗り物が壊れるシーンで、僕はアシスタントにビスの1個1個、なぜビスが取れるのか、なぜここに弾が当たると爆発するのかを考えて描かせているので、そういうところを感じてもらったり、楽しんでもらったりできればいいなと思います。

活字から想像するのが得意な人、何かを見せられてその中で想像するのが得意な人、音があったり動いたりすることで初めて想像できる人、得意な見方が人それぞれあるわけで、自分に一番合った、好きな見方をすれば、根っことしては同じテーマを扱っているわけですから、同じように楽しんでもらえるはずです。

──漫画オリジナルの要素として、宮部の孫・佐伯健太郎の恋愛話が加えられていますね。

須本さん:
そうなんです。まず、小説を読んだ時に、戦時中を生きた宮部のどこがかっこいいのか考えたんです。おそらく現代の若者では言えない、たとえば好きな女の子に「好きだ」とか「必ず君のことを思っているよ」とか、気持ちを伝えているところなんじゃないかと思ったんですね。これは戦争というバックボーンがあったから言えたのであって、今の時代ではなかなか言えないことですよね。

でも、本当は現代の人だって「自分もそういう時代に生きていたら、はっきり言いたい」という気持ちつまり、自分の言葉で異性に気持ちをちゃんと伝えることに対する憧れというか、格好いいと思う気持ちがあると思うんです。それをわかりやすく読者に追体験してもらえるにはどうしたら良いかと考えた結果、健太郎に恋愛話を作れば良いのではとなった訳です。
小説では姉の方に恋愛話がありますが、男子目線で恋愛を描いた方が宮部と妻の話ともシンクロし、テーマも明確になって読者もより感情移入して読んでくれると思いました。その話を百田さんにした時には、実はそういうやり方も考えてはいたと言っていましたね。あともう一つ、自分としては入れたかったのは、戦争や昔のことにはあまり興味も知識もない今の若い人と健太郎のやり取りですね。

健太郎は祖父のことを調べるうちに、戦争や特攻に詳しくなっていく。当時を生きた人たちの気持ちがどんどんわかるようになっていく。「特攻」という言葉に敏感になった彼に、「戦争だ!」とか「特攻だ!」とかいう言葉を日常で軽々しく使う同年代の若い人をぶつけると、どうなるか。そういうシーンを作ると、読者にとってはこの物語を身近に感じられると思うんですよね。戦争を軽々しく語ってしまう気持ちもわかるし、健太郎がそれに抗いたくなる気持ちもわかる。つまり、今を生きる自分の物語としてとらえることができる。そんなシーンを描きたかったんですが、結局は漫画では入れられなかったんです。
でも、映画を見たら、全くその通りのシーンがあって! やっぱりそうだよなぁ、僕もやりたかったなぁ!と思いました。

ついでにいうと、健太郎が恋をする相手の女の子にもモデルがいるんです。戦争体験者の証言を集める保存会というのをやっている早稲田の学生がドキュメンタリーに出ていたので、その子に会いに行きました。彼女はひょんなきっかけで、授業のテーマとして証言を聞こうと体験者のところを周り始めたそうです。やっていくうちにすっかりやる気になって学校の友達に話したら、「就職がまず大事でしょ」と言われてしまった。体験者のおじいちゃん達にも「頑張ります」と約束したのに、自分の熱い気持ちが皆に伝わらずショックを受けたそうです。

でもおじいちゃん達は、今君ができることをやってくれればいいし、就職が大変ならそれをまず先にと言ってくれて、それを聞いて自分の無力感に彼女は号泣してしまったそうです。
これは、今回の『永遠の0』の話の軸に似ているなと思ったので、ぜひその女の子のエピソードを入れたいと思い、小説には無い部分を漫画ではつけ足した訳です。

──零戦や戦闘シーンが緻密に描かれており、作画が大変だったのではと思うのですが、資料などはどうやって集められたのでしょうか?

須本さん:
参考になったのはやっぱり復元ですが、実際の零戦を見たことですね。愛知の三菱重工資料室とか、呉の大和ミュージアム、鹿屋の資料館などに連載前に取材に行き、機体を見て、実際に乗らせていただき、細かい部分まで写真を撮らせていただきました。
それと、意外と映像も残されていて、一番残っているのは「アメリカ国立公文書館」で開示されている米軍が撮ったガンカメラの映像です。あまりにも膨大過ぎて自分では選べないので、研究として集めていらっしゃる専門の方々にお願いし、厳選された映像を見せてもらいました。

それから、百田さんと一緒に京都まで、元零戦パイロットの方のところへインタビューにも行きました。まさに主人公・宮部のモデルになった方で、開戦当時からパイロットで、最後まで生き延びてなおかついまだご健在なんです。その方が百田さんに会って感動しているんですよ!本当に戦争を生き抜いて来た方を認めさせているのだから、百田さんはすごいなと思いました。その時に「NPO法人零戦の会」の方も来ていて、色々とガンカメラの映像などを見せてもらいました。

あとは、グアムに行ってセスナの操縦も体験しました。横に本物のパイロットがいて補助はしてくれますが、離陸から着陸、タッチアンドゴーまで体験できるんです。それを体験してから、零戦パイロットに「セスナと零戦の違いは?」など質問をし、専門的なことを教えてもらいました。

──最後に、漫画の見どころを教えて下さい。

須本さん:
ぜひ見てもらいたいのは、ラストのシーンですね。
これは「鹿屋航空基地史料館」の館長さんから聞いたお話なのですが、特攻隊員は最後、通信機の電鍵(でんけん)を押しながら特攻に向かうんです。その音を受信している側の人は、それが長いと「特攻が成功した」、短いと「撃墜された」のだと受け止め、死んだかどうかを判断していたそうです。
ただでさえ、その音を聞かされる側の人間は胸がつまる思いだったと思うのですが、それをやっていたのは、鹿屋の女学生だったというのです。こんなにひどい、こんなに泣ける話はありませんよと、館長さんは写真も見せて下さいました。
僕にとってはそれがすごく心に響いたので、何としてもラストでそれを表現しようと思いました。宮部の最期を誰が見届けるのかと考えた時に、その写真がすぐに思い出されたんです。ここをラストにできるのは、漫画ならではだと思いますし、最終話が掲載された後に反響もたくさんあり、うれしかったですね。
他にも、景浦介山というキャラクターへの思いは強かったので、小説以上に書き込んだ部分があり、そこもぜひ注目して見て欲しいです。

──ありがとうございました。


確かにコミック版は原作と異なる箇所があると認識したものの、だからと言ってそれがこの作品のテーマから逸脱しているとは全く感じなかったし、むしろテーマに忠実に独自のアレンジを施したのだとわかった。

そして須本さん自身が語った通り、ラストシーンはコミック版ならではの演出となっている。胸が締め付けられる圧巻のラストなので、小説ファンにもぜひ読んで欲しいと思う。また、活字だけでは零戦や戦闘シーンにピンと来ないという人にも、丁寧に描きこまれたコミック版はオススメだ。
コミック版『永遠の0』は第1話がwebで立ち読み可能なので、ぜひお試しを。

コミック版『永遠の0』(第1話立ち読み可)
http://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-83796-4.html
映画『永遠の0』
http://www.eienno-zero.jp/

コミック版『永遠の0』より
コミック版『永遠の0』より

 

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